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避雷管(GDT)の基本的な使い方と選定

通信伝送システムの架空線、ケーブルには、落雷による誘導雷サージ、強電線路からの誘導、混触等による異常電圧の発生などが起こり、人体に危険を及ぼしたり端末機器を破壊したりする恐れがあります。
また、AC商用配電線にも同じように異常電圧が発生します。
避雷管(GDT)はこうした異常電圧・電流を吸収するために使用します。ある一定以上の電圧・電流が印加されると、瞬時に放電を開始し、その両端はスイッチがオンした状態と同じになります。
放電中の避雷管(GDT)は異常電圧が去れば元の状態に自動復旧します(自復性)。
避雷管(GDT)は他のサージ防護素子バリスタやダイオードに比べて、サージ電流耐量が大きく、同じサージ電流耐量であれば、小型になります。
また、静電容量が小さいため(1~3pF程度)、伝送回線に影響を与えません。

1. 避雷管(GDT)の概説
1-1. 構造

2個あるいはそれ以上の電極を気密容器内に封入し、アルゴン・ヘリウム・ネオン等のガスを充填します。気密容器はセラミックが使用されています。
セラミックは機械的強度・熱衝撃・耐アーク性に優れ高信頼度・高性能が得られます。
避雷管(GDT)は大別して、2極管と3極管の構造です。構造を図-1(A)及び(B)に示します。

図-1 2極管と3極管

2極管3極管共に、電極と外囲器(セラミック)を銀ロウにより封着し、管内には希ガスが封入されています。電極内側放電面には特殊な塗布材が塗布されています。

1-2. 避雷管(GDT)についての主な用語の説明

(1) 直流放電開始電圧(Vs)
避雷管(GDT)に抵抗を通して、直流電圧を加え徐々に上昇させ避雷管(GDT)に電流が流れ、端子電圧が下がる直前の電圧を直流放電開始電圧といいます。
通常、直流放電開始電圧は、100V/secの上昇電圧によって放電する電圧を示しています。
一般に放電開始電圧は、明るい所と暗黒中で測定した時にその値は異なり暗黒中の時は高い値を示すことがあり、これを明暗不整といいます。明るい所で放電させる時は避雷管(GDT)内部の封入気体分子が光エネルギーにより励起され、自由電子が充分あり放電し易い状態にあり、暗黒中では自由電子が不足するためです。
当社の避雷管(GDT)は種々の処理を行い、明暗不整を解消してあります。

(2) サージ放電開始電圧(Vss)
直流放電開始電圧に対して、急峻な立ち上がりの電圧を加えたときの、避雷管(GDT)の放電開始電圧をいいます。
立ち上がり電圧の峻度は、100V又は1kV/μsです。
サージに対する応答を示しており、保護すべき機器の耐圧に対する目安となります。

(3) インパルス放電電流耐量

図-2 2極管と3極管

サージ波形の表示に使用される8/20μsとは、(TfxTt)μsに数値を置きかえたもので、Tf及びTtは上図の様にそれぞれ立ち上り時間8μs、立ち下り時間20μsを表しています。
インパルス放電電流耐量 は1回の放電に耐え機械的な破壊を生じない値で示されています。避雷管(GDT)が壊れることなく、一定の特性を維持できるインパルス電流の波高値で、想定される機器に侵入するサージ電流に対応できるかの目安になります。

(4) 交流放電電流耐量
50Hzの周波数で9サイクル(180ms)1回の放電に耐え機械的破壊を生じない値を示しています。
避雷管(GDT)が破壊することなく、一定の特性を維持できる最大交流電流(rms)で、電力線等の混触を想定した規格です。

(5) インパルス反復寿命
避雷管(GDT)に規定のインパルス電流を1~2分間隔で繰り返し印加したときに、避雷管(GDT)が破壊することなく、一定の特性を維持できる平均的回数を示します。放電させ耐える電流値と回数が示されています。

(6) その他の特性
続流
常時電圧が加えられている回路などに避雷管(GDT)を使用するときは、続流に注意する必要があります。
続流とは避雷管(GDT)が雷サージなどにより放電した後、常時加えられている電圧により引き続き放電を持続する現象を言います。
続流は常時印加されている電圧が直流か交流か又、その電圧・電流・回路条件により左右されるので、避雷回路の設計時には充分な調査が必要です。
なお一般の電話回線では、回線自体の電流が制限されているため、続流の心配はありません。

2. 避雷管の使い方
2-1. 基本的な避雷回路
図-3 避雷回路

避雷管を用いた避雷回路は、図-3(A)2極管を用いた回路と、図-3(B)3極管を用いた回路のどちらでも構成できます。
2極管は1個の独立した放電間隙を持ち図-1(A)の避雷管2個をL1-E・L2-E間に接続して避雷回路を形成しています。
2個の2極管を通信回線L1・L2-接地E間に接続し、雷サージ電圧が印加された時、2個の避雷管(GDT)はそれぞれの特性に応じ放電動作にばらつき(時間差)を生じることがあります。
従って、図-4に示すように、A点で1個の2極管が放電動作をし、ほかのもう1個の2極管がB点で放電動作すると、斜線の部分が線間電圧となり、機器に加わり破壊の原因になります。避雷管(GDT)の放電動作のアンバランスが大きいと、斜線部分の面積が広くなり、極端な場合、1個の2極管が放電動作をし、他のもう1個の2極管が放電しないとA点より右側の波形全体が線間電圧になり、機器破壊の危険性は益々増加します。

図-4 線間電圧の発生

一方、3極管は1個の容器に、3個の電極を配置し、中央のアース電極には穴を明けてあり、アース電極の両側にある2個の放電空間は、放電に必要な封入ガスを共有することになります。→図-1(B)
従って、一方の電極間隙が放電動作を始めようとする時は、封入ガスが充分電離されており、膨大な数の自由電子と陽イオンが出ており、これがもう一方の放電間隙に非常な速さで拡散して行き、放電動作を誘発する状態になります。
このように、3極管は2個の放電間隙の放電動作を殆ど同時に行われるため、2極管を2個使用した時のような線間電圧はほとんど発生しません。
従って、2本がペアになっている通信線路や電源線には、3極管を用いるのが適切な使い方となります。

近年、通信機器のほとんどが、ICチップや、マイクロコンピュータで構成されており、動作電圧も低圧化され、低消費電力化されてきており、過電圧に対して脆弱化しています。
IC・LSI及びトランジスタ機器でも、過電圧に弱いものについては、避雷管(GDT)と組み合わせて別に2次保護素子との組合せが必要になります。
図-2(B)は、3極管と2次保護素子の組み合わせ回路の一例です。
回路に使用する3極管の放電電圧は低いものを選定することは言うまでもありませんが、防護しようとする回路の動作電圧を考慮し、避雷管(GDT)の放電電圧は、装置の動作電圧より高いものを選定します。
2次保護用に使用する素子としては、バリスタ、ツェナーダイオード、接合形シリコンバリスタ、アバランシェダイオードなどがありますが、いずれもサージ電流耐量はそう大きくなく、3極管と組み合わせて使用することで、サージ立ち上がり部分の保護を2次保護素子で行います。

3極管と2次保護素子の組み合わせ回路の避雷動作は概ね次の通りです、(図-5参照)

①急峻に立ち上がってきた雷サージの電圧が、2次防護素子の設定電圧に達すると、雷サージは2次防護素子の電圧にクランプされます。(A部)

②しかし雷サージの電圧はそのまま上昇を続け、避雷管(GDT)のインパルス放電始電圧まで達したところで、避雷管(GDT)が動作し放電を開始します。(B部)

③避雷管(GDT)が放電すると、雷サージは避雷管(GDT)内部で短絡状態となり、アースに流れるか又は熱として消費されます。通常はアース接続を行って、雷サージはアースに流します。

④2次防護素子は、雷サージが2次防護素子の動作電圧に達してから、避雷管(GDT)のインパルス放電開始電圧になるまでの間の、雷サージに耐えなければなりません(電流耐量といいます)。(C部)

図-5 3極管と2次保護素子組み合わせ回路の動作概念
2-2. 避雷管(GDT)の選定

避雷管(GDT)を選定するに当たっては、保護しようとする機器やシステムと、協調をとる必要があります。保護したい機器の絶縁耐圧よりも、避雷管(GDT)のインパルス放電開始電圧が高いものを選定すると、避雷管(GDT)が放電する前に、異常電圧が機器の絶縁耐圧に達してしまい、機器は破壊してしまいます。また機器内部に避雷素子が組み込んである場合には、組み込んである避雷素子の動作開始電圧を考慮して、避雷管(GDT)の動作開始電圧を選定しなければなりません。機器に組み込んである避雷素子の動作電圧と大きくかけ離れてしまうと、機器に組み込んである避雷素子に大きな電流が流れてしまうことになります。
2-1項で説明したように、避雷管(GDT)は大別して、2極管と3極管があります。2線間のサージ電圧差(横電圧又はノーマルモード電圧)をより小さくしたい場合は、3極管を使用することで、サージ動作時の横電圧を小さく抑えることができます。
商用電源からの給電電流が大電流になる回路に避雷管(GDT)を使用した場合、サージによって放電した避雷管(GDT)が、サージがなくなっても、給電されている回路電圧によって放電を持続してしまい、放電を停止しない場合があります。これを続流と言います。
通常電源回路に避雷管(GDT)を使用する場合には、続流を防止するために他の素子(バリスタ等)と組み合わせて使用します。

2-3. 選定に当たって留意するべきポイント

避雷管(GDT)を選定するに当たって、最も注意すべき事項について解説します。
避雷管(GDT)は、正しく選定しないと、保護すべき機器やシステム雷防護性能を十分に発揮できなかったり、機器やシステムに悪影響を与えてしまったりすることがあります。
避雷管(GDT)の選定についてわからないことや、困りごとなどがありましたら、当社までお問い合わせ下さい。

①直流放電開始電圧
避雷管(GDT)は異常電圧に対して放電するため、平時の信号電圧、電源電圧で放電しないように、余裕のある直流放電開始電圧の避雷管(GDT)を選定する必要があります。
避雷管(GDT)の直流放電開始電圧の規格下限値に対して、20%以上の余裕をとることが必要です。ただし、余り余裕をとりすぎてしまうとインパルス放電開始電圧が高いものとなってしまい、保護レベルの低下を招くので注意が必要です。

②インパルス放電開始電圧
保護しようとする機器のインパルス耐圧よりも低いインパルス放電開始電圧の避雷管(GDT)を選定します。
特に低い耐圧の機器では、図-3(B)のような2次防護素子を組み合わせて使用することをおすすめします。

③インパルス放電電流耐量
直撃雷のサージ電流では避雷管(GDT)は破壊してしまいますが、通信線や電力線に誘導された誘導雷電流に対しては、機器の設置されている環境や、誘導される雷サージの波形などの条件を加味して、避雷管(GDT)のインパルス放電電流耐量を確認して選定してください。
当社の避雷管(GDT)は、JIS C 5381-21 等に対応した規格で設定されています。

④交流放電電流耐量
通信線などに配電線が接触して、商用電力が通信線などに流れてしまう「混触」に対して、避雷管(GDT)が交流の放電をどのくらいの時間、電流に耐えられるかを示しています。避雷管(GDT)の選定では、特に考慮の必要はありませんが、混触防護の設計が必要な場合には、フェールセーフ機構を避雷管(GDT)に取り付けることをおすすめします。

⑤絶縁抵抗
当社の避雷管(GDT)の絶縁抵抗は、工場出荷時は1,000MΩ以上の規格で検査しておりますので、雷防護回路の設計には影響を与えることはありません。

⑥静電容量
通信回線や信号回線に避雷管(GDT)を使用する場合に、信号が高周波の場合は避雷管(GDT)の持っている静電容量を考慮しておくことが必要です。しかし、避雷管(GDT)の固有の静電容量は最大でも数pF程度で、数百MHz以上の信号に対してもほとんど影響を与えることはありません。

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